北北西に進路を取れ

 母が太巻きを買ってきた。節分に太巻き!? 最初違和感があったが、もう聞き慣れた。世間でもけっこう浸透してきているらしい。


 わが家もついに太巻きデビューか。
 以前からいい年をして豆をまくという行為に抵抗があった。そのため、この太巻きをただ食べるだけというシステムは非常に良いと思った。
 ルールは簡単。恵方に向って、願い事をしながらただひたすら食べれば良い。
 今年の恵方は北北西だ。無言で食べるべし。しかしこの無言というのが辛い。喋るなと言われると喋りたくなる。というか喋るとどうなるのか。「こんにちは」って言って玄関から魔物がやってくるのか。ちょっと見てみたい。大丈夫。退治はできる。木刀、包丁、散弾銃。そんな武器ではダメだ。捨ててしまえ。豆を用意しろ。豆が良いのだ。こいつは痛い。パシパシッと当てると、もうヤツらは降参だ。「アウチ、アウチ」と言って逃げて行くだろう。
 喋ればこのような光景が見られる。一見の価値アリだ。しかし、喋らなければ願い事が叶うという特典も捨て難い。
 どんな願いでも叶うのだろうか。7つ集めなくても良いのだろうか。やってみるのも悪くはない。やってみよう。


「どうか、一言も喋らず太巻きが食べられますように」


 おぉ、食べたと同時に願いが叶った! すげぇ。
 あとは年の数食べるだけだ。ゲップ。