解体新書を片手に

 先日、母が足を骨折しました。と言ってもヒビで済んだらしいですが。
 正座してて立ち上がった時に、ヨロヨロ、ポキッと…。


 私は小学校4年の時に骨折をしたことがあります。
 その日は、自分としては良い日だと思っていました。学校が終わり、家に着いてすぐ宿題をしたのです。こんな事は前代未聞です。
 その時の集中力はすごく、1時間弱で宿題が終わりました。
 後は遊ぶだけ。もう楽しくてしょうがありません。
 しかし、慣れないことはするものではありません。不運の風がその時にはもう私を取り巻いていたのです。


 私はお腹が空き、近くのスーパーに菓子パンを買いに行きました。そこで事故は起ったのです。
 鼻歌まじりに自転車を走らせ、停まっている車の横を通ろうとしたその時でした。急に車が動き出したのです。


 危ない! キキー−ッ! ゴン!


 気が付くと私は倒れていました。顔が真っ青になっているのが分かりました。マンガみたいに星がチカチカ飛んでいます。
 あ〜、でも生きているみたいだ、良かった良かった…と、右手を見て驚きました。何と、自分の手首がズレているのです。
 うぎゃ〜〜〜、何コレ〜〜〜〜!?
 すぐに救急車に運ばれました。初めての救急車ですが、そんなことはどうでもいいんです。こっちは手首がズレているんです。笑っちゃいますよ。


 病院に行ってまた驚きました。
 お医者さんが「あ、骨折ですね。では治しますから手を出して」と言い、私の骨折している手をつかみました。
 その瞬間、私は「え? え?」と焦りました。
 看護士さんが私を抑え、お医者さんが手首を強く引っ張ったのです。
 んぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
 その引っ張った勢いで、お医者さんは骨折のズレを戻したのです。
 何という原始的な治療! しかもめちゃくちゃ痛い!
 私がひ〜ひ〜言っていると、先生はすました顔で「はい、元にもどったよ。後はくっつくだけだから」と、あっさり治療は終わりました。
 何かすごい大まかだけど、先生大丈夫ッスか…?
 心の中の問いかけに先生は答えてくれません。きまりが悪いのでしょう。自分の能力では治せないような大変なケガを、知ったかぶりで治したのですから(正確には治したように見せかけた)。


 しかし良いことが一つありました。
 私はその骨折でギブスをはめ、子供の憧れTOP3に入る三角巾で腕を吊ったのです。
 もうこのアイテムだけで重症患者の仲間入りです。それにギブスまで付いているのですから天下無敵です。
 学校へ登校すると、予想通り皆が群がってきました。
「はい、押さないで押さないで。質問は一つずつね」
 いつも冴えない少年が、今ではクラスの人気者です。人生何が起こるか分かりません。宿題もたまには早くやってみるものです。
 ま、その人気も1週間で収まりましたが…。早かったですね〜。友人なんか、私の骨折のコトなど忘れてドッヂボールを誘ってきましたから…。


 数カ月後、奇跡的に私の手首は治りました。医者のお陰? いえ、違いますよ。治ったのはあくまでも奇跡です。生命の神秘です。認めません、あんな治療は。


 これが私の骨折の思い出です。
 …というか、母のは本当に骨折なんでしょうか? 「もう痛くない」と言って、昨日からスタスタ歩いていますけど…。