ハナコ、覚醒!

 富士登山の疲れがまだ癒えない私に、またもや隣の人が頼んできました。お馴染み、犬の散歩です。
「急に田舎へ帰ることになったので、5日ぐらいハナコ(仮名)を頼みます」
 ……殺す気ですか?


 さっそく夕方散歩です。
 ハナコは、以前よりペースがゆっくりになっていました。もうけっこうな年ですからね。本当に「散歩」という感じです。満身創痍の私としては、ありがたいことですが。


 ハナコは散歩中、いつもクンクンと匂いを嗅ぎます。草むらの中や電信柱、木の根元などをクンクン、クンクン。何かしら物を見つけると、必ず匂いを嗅ぎます。
 しかし今日のハナコはちょっと違いました。何故か何もない歩道でクンクンしています。どうしたんだろうと思った矢先に、ガブッ! シャクシャク、シャクシャク。
 あ! 何か食った!!
 拾い食いは絶対にさせてはいけません。私は慌てました。
ハナコ! 何食ったんだ!? ダメだ! ペッしろ! ペッ!」
 しかしハナコはもうすでに飲み込んだ後。
 あわわわわ、何を食べたんだ…。
 ハナコが食べた辺りを見てみると、そこには、蝉(セミ)の羽が一枚…。


 ギャーーーーーーーーース!
 ハナコ蝉の死骸を食ったーーーーーーー!!


 パニックになりながら、私の頭に、ある言葉が浮かびました。


野生


(こいつぁ野生だ。ハナコは飼い慣らされてなんかいねぇ。野生そのものだ)
 私が呆然としていると、またシャク、シャクという音が。
 また食ったーーーーーー!
 ハナコ〜、もう勘弁してくれ〜。参ったから。降参だから。ごめんなさいってば。
 帰りにもう一匹食べて、大満足でハナコは散歩を終えました。


”野生ハナコ”を目の当たりにして、いささか圧倒された私。
 心配で父に報告しました。すると、「あぁ、○○さん(隣の人)言ってたよ。ハナコは散歩中、美味しそうに蝉を食べるんだって。だから大丈夫」。
 そうか…。いつも食べているのか…。まぁ少し安心しました。
 でもあの食べる音だけは勘弁してもらいたい。また明日も食べるのかなぁ〜。