接客

 お昼、私はフラリとカレー屋さんに入った。ロースカツカレー390円という看板に引き寄せられたのだ。安い。まぁ食券の店だし、値段ほどの味だろうと思っていたら、ロースカツがサクサクでかなり美味しかった。満足。
 味は良かったが、問題は接客だ。
 店員は二人だった。店を行ったり来たりと、こまごまとよく働いている。しかし何か忘れていはいないだろうか。水だ。私の水がまだだ。まぁそのうち来るだろうと思っていたら、隣りに違う客が座った。
「いらっしゃいませー」
 店員が水を持って来た。私と隣りの客の、ちょうど中間に。一つだけ。タイミング的には隣りの客への水だ。しかし私はもらっていない。もらう権利がある。順番としても私の水だ。距離もほんのわずかながら私に近い(気がする)。席は私が右、左側にその客だ。普通水はどちらに置くだろうか。右手で食べているのだから、水は左に置くのが自然。食べて飲むという動作がスムースに行えるからだ。そのような点からしても、やはり私の水だという事が分かる、とかなんとか考えていたら、先に取られてしまった。くそぅ!


 カレーで水が無いのは非常に辛い。からいと書いてつらい。水を頼みたいが、そうすると隣りの人に妙な気を使わせてしまう。
(あれ? オレが飲んだ水、この人のだったのか? いや〜、悪いことしたな。でもオレのは無かったし。水との距離はオレの方が近かったし。ロースカツはサクサクだし。オレは悪くないよ。店員のミスだ。何だよ、大きな声で言って。オレへの当てつけかよ)
 そう思われたら30年間紳士で通して来た苦労が無駄になってしまう。私は彼が食べ終わるのを待ちながら、ゆっくりと食べた。彼も彼で、やはり水は自分のではなかったのでは? と思ったのだろう。その罪悪感からか、ものすごいスピードで食べ、店を出て行った。
 ようやく水を頼める。私は店員に水を注文した。二人の店員はあっ! という顔をして、「大変失礼いたしました〜」とすぐに水を持って来てくれた。これで一件落着、と思いきや、その後の店員の行動に私は驚いた。一人が、お前何忘れてんだよ〜という表情で、「プシュー、プシュー」ともう一人の脇腹をつついたのだ。つつかれた店員は、うるせーやい〜という表情で「プシュー、プシュー」と、これまた脇腹に突き返した。そこから「プシュー、プシュー」合戦。プシューという擬音と共に、手刀の攻防が始まった。何人もの客の前でだ。……何だこれは。


 おい! オレもまぜろ!