ピッタリの言葉ありがとう

 デザインフェスタで売る年賀状、今せっせと描いております。
 版画調で描いたら、とても年賀状っぽくなりました。
 版画はいいですね。味わいがあると言うか、趣があると言うか。
 私は主に色鉛筆でイラストを描いているのですが、版画も彫ってみたいなと前々から思っていました。
 しかしなかなか体が動きません。なぜ版画を拒んでしまうのか。私は原因を探りました。
 どうやら、あの時の事が原因のようです。


 あれは小学3年の図工の時間でした。
 みんな初めての版画です。どきどきわくわくしていました。もちろん私もとても楽しみ。図工大好き少年ですから。
 机の上には真新しい彫刻刀と板が置かれています。
「皆さん、版画を作る前に大切なお話があります」
 先生はざわついている生徒を静め、話し始めました。
「彫刻刀というのは、とても危ない刃物です。気をつけて扱いましょう。決して、削る方向に手を置かないで下さい」
 私は「そうか。それは気を付けないとな」と強く思いました。その直後です。
 サクッ!
 彫刻刀が私の指に刺さりました。
 なぜ?
 話を聞きながら、彫刻刀で遊んでいたのと関係があるのでしょうか?
 血がドクドクと出てきます。さすが彫刻刀。カッターなんかと格が違います。
 私は痛いと思うより、ヤバいなぁと思いました。
 注意を受けたばかりです。ここで、「先生、指を切っちゃいました」とはさすがに言えません。
 そこで私は時間を稼ごうと思いました。作業が始まれば、このおっちょこちょい集団、必ず事故は起こる。それが偶然私だった。ごく自然な流れです。
 よし、いい計画だ。まずは止血をしなければ。


「先生! 海人くんが彫刻刀で指を切ったみたいです!」


 だれ? オレの計画をぶち壊すのは。
 隣の席のたかゆきくんでした。気付いて当然です。私は一生懸命、指をちゅぱちゅぱ吸っていましたから。
 皆が一斉に私の方を向きます。庶民どもは好奇心が旺盛です。
 私は締まらない顔で、でへへと笑いました。
 先生は呆れた顔をしていました。「いま話をしたのに…」という感じでしょう。
 私はどうして良いか分かりませんでした。恥ずかしいと言うか気まずいと言うか。何と言えば良いのでしょう。うまく言葉に出来ませんね。
 すると、たかゆきくんが笑いながら私に言いました。
「間抜けだな〜」
 おぉ、それ! ピッタリの言葉ありがとう。


 この時以来、版画からは遠ざかっています。指の傷は癒えましたが、心の傷は癒えてません。
 私の、人生たった1つの汚点、早く消えてほしいです…。
 あ、汚点は1つですが、失敗談なら500以上ありますから。
 その話はまた今度。