そのチケット買います

 告白します。私は極度の音痴です。
 人前で歌うことを禁じられた音感です。
 言うなれば、SMAPの中居くんです。ドラえもんジャイアンです。
 しかし、彼らは人前で歌います。自らコンサートを開くほどです。
 私は人前では歌えません。カラオケも無理です。
 彼らにあって、私にないものとはいったい何でしょう。


 しばらく考えました。そして結論が出ました。
 逆だったのです。
「彼らにあって、私にないもの」ではなく、「彼らになくて、私にあるもの」だったのです。
 彼らになくて、私にあるもの。それは「優しさ」です。
 音痴が歌うと、マイクはハウリングをおこし、窓ガラスが割れ、大地が震え、人々が悶え苦しみます(ジャイアンリサイタル参照)。
 他人を思う気持ちがある人は、こういう行動をおこしません。
 カラオケで歌えない人、それは優しい人の証です。


 最近、私は、ようやく人前で歌えるようになりました。それは、優しさを捨てたからではありません。気の知れた仲間、友人の前だと、歌えることが判明したからです。
 私を音痴だと分かってくれている友人。全てを理解してくれている友人。
 その友人が私をカラオケに誘う。音痴OKのサインです。苦しむ準備OKのサインです。


 それで私は分かったのです。先程の結論が間違っていたことを。
 SMAPの中居くんやジャイアンも、優しさが欠けているのではなかったのです。
 彼らは、ファンや周りの人達を友人だと思っているから歌うのです。気心の知れた仲間だと思っているから歌うのです。


 音痴は優しい人。そしてその人が人前で歌うということは、皆を信頼しているという意思表示なのです。
 ほら、あの言葉が聞こえてきます。


 おぉ! 心の友よ!


 ジャイアンリサイタル、もし呼ばれたら、私は喜んでチケット買いますよ。