富士レポート3

「息が切れている方が今はいい」 富士レポート3


 あ、次の8合目に行く前に7合目の焼印を押さねば。
 私たちは焼印を押してくれる所を探しました。が、ありません…。
 お店の人に聞いてみました。すると、こんな返答が。
「7合目はステッカーになります」
 ……。
 焼印で揃えろやーーーー!!
 意味が分かりません。何故にステッカー…。アホですか。意地でも買いませんよ。
 富士山の連携が全く無いぶりに呆れてしまいました。
 プンスカ怒りながら、私たちは7合目を出発。いざ8合目!


 そうそう、登る前に、友人がこんなことを言っていました。
「頭が痛くなったらそれは高山病なので、早く報告するように」
 なんと! そんな病気があるのですか!?
 症状が出ているのに無理して登ると、死に至ることもあるらしいです。あわわわわ。


 もう少し詳しく知るために、辞書で調べてみました。
 高山病とは、比較的短時間のうちに高山へ登ったときに起こる症状。気圧の低下や酸素の欠乏などが原因となる。息切れ・動悸(どうき)・めまい・頭痛・吐き気・耳鳴り・難聴など。山岳病。


 息切れ? 動悸? それは登った時からずっとしていますが…。あわわわわ。
 しかし、めまいや頭痛などはしていないので、まだ大丈夫のはずです。あわわわわ。


 7合目を出て15分。友人に異変が!
「オレ、ちょっと頭痛い…」
 ひょえ〜〜〜〜〜! とりあえず冷静に! ちょっと休もう! 休もう! あわわわわ。
 オレは大丈夫だろうか? 深呼吸して、自分の体に聞いてみます。
「オレの体、大丈夫か?」
「ダメ」
「オレの足、大丈夫か?」
「もうガクガク」
「オレの心臓、大丈夫か?」
「ドクッ、ドクッ、ド……」
「し、心臓? 心臓ぉーーーーっ!?」
「……ドクッ、ドク、ドドドドドドドドド!」
「ふー、異常な音だけど、大丈夫らしい。それから、あとは…、頭は大丈夫か?」
「それは良いか悪いかってこと?」
「頭痛がしているかどうかってことだ」
「そういえば頭痛がするね」
「え?」
「そう思えば思うほど頭痛がするよ。やべ、かなり痛い。ズキンズキンしてる」
「高山病発生ーーーーーーーーーー!」


 私はうずくまっている友人に報告しました。
「やばい、オレも頭痛がするよ。かなりズキンズキンしている」
「え? そうなの? オレ、もう治ったよ」
「がーーーーーん!」
 友人のフェイントから一転、私が高山病になったようです。頭痛がかなりしています。
「う〜ん、どうしようか。時間も時間だし、そろそろ下山する?」
「おぉ、それはありがたいお言葉! 頂上なんかもうどうでもいいや!」
「じゃあとりあえず次の8合目まで登って、それから下山しよう。体力ももうそろそろ限界だしね」
「うん、そうだね! 8合目で下山、なかなか聞こえも良いよ!」
「それじゃあ8合目まで」
「よし!」
”8合目まで”をかけ声に、元気を振り絞って登りました。すると、看板が見えました。





 あと5分! これだけ元気の出る言葉はありません。
「もうすぐで8合目…、もうすぐで8合目…」
 私は頭痛をこらえて登りました。
 そしてようやく小屋の近くまで辿り着きました。また看板が立っています。





    


 本7合目?
 8合目じゃないんですか…?
 力がどっと抜けました。友人も呆然としています。
 そりゃ「8合目で下山」と「本7合目で下山」とでは、ぜんぜん聞こえが違います。8合目だと「なかなか登ったね」という感じですが、7合目と言うと、「ちょっと早いんじゃない?」という感じです。7合目下山はありえません。
 しかし、私には頭痛が…。
 パッと上を見ると、あれ? 8合目の小屋がすぐそこに見える…。
 私は友人に聞いてみました。
「ねぇ、あそこなら、登っちゃう?」
 友人もあんなに近くと知って驚いていました。
「1時半だし、ギリギリ行けるか…。頭は大丈夫なの?」
「中身が、ってこと?」
「いや、頭痛の方…」
「あぁ、あそこまでなら大丈夫だよ」
「じゃあ行こうか」
 登ってしまえば、あとは下るだけ。少々の体力は使っても大丈夫です。
 私たちは今度こそ、8合目を目指して登りました。体力の限界でしたが、根性で登りました。
 しかし、あんなに近くに見えたのに、行けども行けども辿り着かず。結局、30分もかかりました。
 着いてすぐ、倒れ込むように休憩。そして証拠の写真撮影。








 休むだけ休むと、あとは下山だけ。ラクチンです。
 ずっと、そう思っていました。
 下山ってこんなに辛いのですか?
 足に力が入らないのに、滑り落ちないように踏み留まりながら歩かなければならないのです。
 下山して3分。登りより2倍大変だと言うことに気が付きました。なのに体力はカラッポ。当然、足は言うことを聞きません。
 ズサッァ! おっと、足を取られた。危ない。すべっ…、おっと、おっ、おっ? おっー! ズサササササーーーー!
 転んだ! 大の大人が転んだっ!!
 海人、一生の不覚です。しかも通りがかりのおじさんに見られました。
「大丈夫?」
「はい、どうかお気になさらず…」
 友人が駆け寄ってきました。
 ズボンの膝の辺りが小さく破けています。イヤな予感がしてズボンをめくってみました。小学校の運動会で作ったような、円形の見事なすり傷です。血がじわ〜っと出てきました。
 友人がマキロンとバンソウコウで手当てをしてくれました。その手当て中、また違う通りがかりの団体に傷を見られました。
「あぁ! 怪我している!」
「ホントだ!」
「血が出てる〜」
「大丈夫ですか?」
「はい…。あのー、どうかお気になさらずにお願いします…。いや、ホントに…」
 何ですか、この曝(さら)し状態は!
 怪我の方は友人の用意してくれた化膿止めに痛み止めが入っていたらしく、全く痛くなくてすみました。友人に感謝です。


 気を取り直し、それからはより慎重に下山しました。
 すると、何やら上の方からものすごい足音が。見ると、3人の男がダッシュで(早足ではありません、ダッシュです)、下山してくるではありませんか!
 いやいやいや、危ないですよ。オレ、歩いていて転びましたから。それをダッシュで下るなんて…。
 そんな私の不安をよそに、男たちは駆けていきます。そして私たちの横をさっそうと、2人の男が駆け抜けて行きました。1人は少し遅れ気味です。
 私が慎重に下りていると、その遅れ気味の男が駆け下りてきました。しかし、私が道の真ん中を歩いていたので、抜かすコースが見付からなかったようです。男は急ブレーキをかけました。
 ズササササササーーー!
 音に驚いて私は後ろを見ると、もうぶつかる寸前の距離に男はいました。
 私は思いました。
(ぶつかってたらキミ、オレに殺されてたよ)
 いやいやいや、そりゃ殺気も立ちますって。頭痛がして、足を負傷して、その上、わけ分からん男に吹っ飛ばされるなんて、ありえないことです。
 男は何事もなかったように、また走って下山していきました。転んでしまえ。


 下山して分かりました。登りは楽しいです。苦しいですが、楽しいです。景色が見られますから。
 下山は登りと違うコースで、まったく景色がありません。永遠に砂利道です。ひたすら砂利道を下りるんです。3時間ずっと砂利道、砂利道、砂利道。中継地点もありません。7合目からずーーーっと、ひたすら下山です。地獄です。下りても下りても全然建物が見えてこないんです。
 そして、私の頭痛の原因が分かりました。これ、風邪です。高山病ではありません。下りてもまだずっと痛いですから。
 汗をかいて、休憩して、体が冷えて…。たぶんそれで風邪をひいたのだと思います。
 すると友人は頭痛薬を出してくれました。用意が良すぎます! またまた感謝。
 お陰さまで頭痛は治ったのですが、相変わらず体調は悪いまま。
 もうここからの私は情けなかったです。友人には本当に申し訳ないと思いました。
「あ〜〜、死ぬ〜〜。もうダメだぁ〜。ムリ〜〜。まだか〜。まだ着かないのか〜〜。気分悪〜〜」
 こんなことをずっと言っていましたから。永遠言っていましたから。
 私がフラフラなので、たぶん4時間以上かかっていたと思います。ようやく小屋が見えました。
「やった! ゴールだ!!」
 そう思ったら、小屋の人が言いました。
「あと2kmで〜す。頑張って〜。あと30分ぐらいだよ〜」
 もっと途中に小屋を作れやーーーーーーーー!
 何でこんなゴールの近くに作ってんだ。まったく。


 とりあえずそこでひと休みをし、あと30分をひたすらヒーコラ下りました。
 そして、今度こそ、ついに、着きました! ゴールです! 平らな道がとても嬉しいです。
 これが富士登山ですか…。そうですか…。
 行けなかった友人のために、来年も登るんですか…。そうですか…。


 できれば、もう登りたくない!
 それが私の感想。素直な感想。
 来年、この気持ちを忘れていないように気をつけます。
 それでは。


 富士レポート(完)