松本さんが来る

 1階へ下りると、父と母があたふたと居間の掃除をしていました。
私「どうしたの、掃除なんかして?」
父「松本さん(仮名)がこれから来るんだ。お前も手伝いなさい」
母「あら、お父さん。お茶菓子とか何も無いわよ…」
父「なに? 果物は?」
母「う〜ん、アレがあるけど…」
父「アレか…」
 ブツブツ言っている親をよそに、とりあえず私は掃除を手伝いました。
 あ、”松本さん”とは、ご近所の方です。お喋りしに来るんだそうです。


 掃除機をかけ終わると、父が台所で果物を剥いていました。
私「それを松本さんに出すの?」
父「そうだよ」
 剥いていたのはプルーンらしきモノでした。確信を持てなかったので聞いてみました。
私「何それ? プルーン?」
 すると父は、驚くべき返答をしました。
「これは、人様に出せるようなモノではありません」


 …は?
 どう言う意味? 人様に出せないようなものを松本さんに出そうと言うの!?
 私は聞きました。
私「え? 何? 不味いってこと?」
父「そう、不味いの」
 一つ食べてみました。
「まずっ!」
 味が無くて触感は不快、そのうえ冷えてません。それ以前に切り方が汚いです。
私「いやいやいや、これはないよ! これ出すんだったら何も無い方がよっぽど良いよ!」
父「え、そうか…? でも何も無いって言うのも…」
私「じゃあオレが何か買ってくるから! 分かった!? これだけは絶対に出しちゃダメだぁっ!」
 私はそう叫んで家を飛び出ました。


 松本さんの命、私が救いました。購入してきたブドウで救いました。冷えてないけど許してネ。


「親しき仲にも礼儀あり」
 父よ。これを3回、口に出して言おう。言っとこう。でないと友達なくすよ。