明日はどっちだ

 ピンポーン。
 夜中の1時。突然家のチャイムが鳴った。
(えぇ? 誰? 夜中の1時やで? 怖っ)
 私は恐る恐るインターホンに出た。
「は、はい…?」
あぁ〜、隣のおじさんだけど〜、ヒィック
 …酔っちょる。
 隣のおじさんは酒グセが悪い。あまり関わりたくないのだが、そうもいかない。下に降りる間にもチャイムが何度も鳴っていた。
(まったく)
 玄関を開けると、ちょうどおばさんが怒りながらおじさんを引っ張っていく所だった。
「海人君、ごめんねぇ」
「いいえ」


 酔っぱらいでスゴいと思うのは、どれだけ酔っていても自分の家に帰れる所だ。あれは何なんだろう。隣の家のチャイムを何度も鳴らしてしまう思考力で、よく帰れるものだ。すごいと思う。
「あの〜、すみません〜、ヒィック。ちょいとお聞きしますが」
「はい?」
「私の家はどこでしょう? ヒィック」
「どちらにお住まいですか?」
「それを聞いているんです」
「…かなり酔っていますね。何県にお住まいで?」
「埼玉県です」
「ここからだと電車で帰られた方が良いですね」
「駅はどこですか? ヒィック」
「駅はですね、西の方にずっと行けばありますよ」
「西じゃ分からん。”国原”を付けて言ってくれ」
「ですから、西国原の方に進みまして、そのままずっと…」
「そのまんま?」
「えぇ、そのままずっと」
「そのまんまだね?」
「そうです。そして突き当たったら右国原に曲がって」
「おい! 右に国原を付けるな! 訳分からん!」
「それはこっちのセリフです」
「もういい! 隣の家の海人君に聞いてくる!」


 ピンポーン ピンポーン
「はい?」
「ワシの家はどこですか?」