パソコンの中に

 弟が中学生の頃の話。多感な年頃なのでご注意を。


 ある日私が家に帰ると、父が言った。
「海人、お父さんのパソコンに何かソフトを入れたか?」
「いや? 触ってもいないよ」
「……じゃあ二郎(弟の仮名)か」
「どうしたの?」
「お父さんのパソコンにエッチなゲームが入っていたんだって」
 母がオロオロしながら言った。
 当時は今ほどパソコンが普及していなく、ウチには父の部屋にしかパソコンがなかった。弟はどこぞで手に入れたゲームを、こっそり父のパソコンでプレーしようとしたのだ。が、パソコンを持っていないものだから勝手が分からず、そのままデスクトップにゲームのアイコンが出っぱなしに……。
「放っておけば?」
 私はどうでも良いというように相手にしなかった。もし私が弟の立場だったら放っておいてほしい。見て見ぬ振りをしてほしい。口笛とか吹いてとぼけていてほしい。しかし母はどうしようどうしようとオロオロするばかり。
「分かった。お父さんがうまく言うから」
「あなた、お願い」
 父の言葉で母は少し落ち着いたようだった。
「……放っておけば良いと思うけど」


 夕飯時。食べている最中だった。何の脈絡も無く、突然父が言った。
「二郎、父さんのパソコンに変なモノが……、その、なんだ……」
 ピキーン! その場の空気が固まった。う、動けない。何だこの金縛りは。父の能力か!?
 長い長い沈黙(のように感じた)後、必死に冷静を装った弟が「は、はぁ?」と言い、それで話は終わった(その後もこの話は一切出ていない)。


 あの空気はあかん。耐えられない。もしあなたの子供がそういう類いの物を持っていたとしても、放っておいてあげて欲しい。頼むから。多感な年頃なので細心の注意を払って欲しいのだ。よろしくお願い。